【ひなたのクリスマス】 ―a dream of yesterday―
今日は、お兄ちゃん達とクリスマスパーティーをするんだよ。
ひなたね、とっても楽しみにしているんだ。
パーティまで、時間があったからお家でテレビを見ていたら、お兄ちゃんに、みなもお姉ちゃんから電話があったの。
何でもケーキを作るから、パーティに遅れるんだって。
それを聞いて、ひなた、
「心配だなぁ」
って言ったら、
「何で、料理はもう上手くなったろう」
と、お兄ちゃんはそう言ったけど、
「普通の料理はなんとかね、でもお菓子は別物だよ、別物なんだよ・・・・・・」
そう言いつつ、ひなたは、あのときのことを思い出していたんだ。
――あれは、いつだったか、みなもお姉ちゃんに料理を教えに行ったとき・・・・・・。
戸棚を開けたら、『食材』って書いてある箱の中に、ひよこさんが入っていたの。
ピヨピヨ
多分、みなもお姉ちゃんが飼っているひよこさんを、たまたまあの箱の中に入れてたんだね。
だけど、ひなた、怖くてみなもお姉ちゃんにその事聞けなかったんだよ。
ピヨピヨピヨ
・・・・・・・・・。
でも、見なかった事にすればいいんだよねっ。
――えっと、その時の事じゃなくて・・・・・・。
みなもお姉ちゃん、何かごそごそやっていると思ったら、
「ねえ、ひなたちゃん、私デザートも創ってみたんだけど」
って、いきなり言い出したんだよ。
でも、お姉ちゃん最近少し料理上手になってきたから、少し期待して、
「えっ、そうなの、見せて見せて、みなもお姉ちゃん」
そう答えたら、お姉ちゃんは、オーブンからアルミホイルの塊を取り出してみせたの。
香ばしい焼き茄子の香りがする。
茄子を思い出したら、ひなた思わず顔が赤くなっちゃったよ。
「あれ、どうしたの、顔が赤いけど・・・?」
「う、ううん。な、なんでもないよっ、それより焼き茄子なの、みなもお姉ちゃん」
ひなた慌てて、でもさすがにデザートに焼き茄子はおかしいのでそう尋ねてみる。
それになんか動いてるような・・・・・・。
「うん、それにちょっと近いかな、見れば分かるよ・・・・・・。ドウコウヒラクカモシレナイケド」
「えっ?」
みなもお姉ちゃん、今変な事言ったような気がするんだけど。
『ドウコウヒラク』ってどういう意味なんだろう・・・・・・。
「ううん、何でもない、開けるね」
でも、お姉ちゃんもそう言ってるし、ひなたの聞き間違いだよね。
そして、ついにアルミホイルの包みが開かれる時がきたんだ(ドキドキ)。
・・・・・・・・・。
でも、包みが開かれた瞬間。
何かね、変なウネウネしたものが、ひなたに飛びかかってきたんだよっ!
ひなた、慌ててジャンプしたから避けられたんだけど、すごく恐かったんだよぉ〜。
――だからね、みなもお姉ちゃんのお菓子はすごく不安なんだ。
ふと、自分の考えに沈んでいると、
「嫌な予感がするな」
お兄ちゃんが、青い顔でそう言う。
「どうしたの、お兄ちゃん顔色悪いよ」
「いやぁ、なんだかとんでもない事が起こっているような気がしてなぁ」
お兄ちゃんは、お兄ちゃんで何か別の想像をしたみたい。
うーん、もしかして、ひなた余計なこと言ったかな。
それで、ちょっと考えて、
「お兄ちゃん、便秘にはミルクがいいらしいよっ」
って言ったら、すかさずお兄ちゃんチョップ。
「うっ、にゅう」
痛いよぉ〜。
「突然訳分からんこと言うな」
「お兄ちゃん手、早すぎだよう」
お兄ちゃんてば、すぐにひなたを叩くんだから・・・・・・。
「はぁ、そろそろ行くから支度しろよ」
お兄ちゃんは、しょうがないなぁという感じで、溜息をついて言う。
ちょっと痛かったけど、お兄ちゃん少し元気になったみたいで良かったよ。
だって、ひなた、お兄ちゃんの暗い顔なんて見たくないんだから・・・・・・。
そのためには、ひなたがいつも元気でいて、お兄ちゃんに元気を分けてあげなくちゃねっ。
そんなこんなで、ひなたは大好きなお兄ちゃんと、パーティ会場へ向かったんだよ。
だけど、途中で大変なことが起こったの。
路面電車は駅に止まらないし、無くなったと思っていた能力が元に戻っていたり、そして何より、あの飛行船がまた
現れたんだよ。
千年もの長い間、この街は、人々の心を食べ続け、その代わりに人々に夢を見せていた。人の真なる想いを、ささや
かな能力として具現化させるという夢を・・・・・・。
そして、飛行船は、その夢を人々に運ぶ役割を果たしていたものか、それとも夢見る街を見守っているものじゃない
か、そうひなたは思っている。
その飛行船が、また飛んでいて、能力が戻っているってことは、街が人々の心を再び欲していることを示しているの
かもしれない。
だとしたら、なんとかしなくちゃ。
そう考えたひなたは、途中、望ちゃんや、わかばちゃん達と合流して、とにかく、その飛行船が止まった学園の屋上
に向かったんだ。
屋上の扉を開けると、そこにはお兄ちゃんがいた。
ううん、お兄ちゃんだけじゃなくって、みなもお姉ちゃんと・・・・・・、そして、彩(ひかり)ちゃんもいた。
「もう、平気なのか」
お兄ちゃんは、彩ちゃんに向かって、どこか懐かしそうに言う。
「私にも分からない。何故また存在できるのか」
彩ちゃんは、どことなく不安げにそう答えた。
そういえば、彩ちゃんは、街に人の心を捧げる役目を果たしていたはず・・・・・・。
ということは・・・・・・!
「まさかっ、またっ!?」
お兄ちゃんも、ちょうどひなたと同じことを考えたみたい。
その言葉の勢いに怯えるように、彩ちゃんは一歩後退する。
でも、みなもお姉ちゃんが、怯えた彩ちゃんを優しく後ろから包み込むようにそっと抱きしめた。
「いいんだよ」
「えっ」
「きょうはいいんだよ、まこちゃん」
驚く彩ちゃんを安心させるように、優しくみなもお姉ちゃんはそう言った。
「だって、今日は街中みんなが夢を見る夜だから」
それを聞いて、やっぱり、みなもお姉ちゃんは優しいんだな。
ひなたは彩ちゃんを疑った自分と比べてそう思っていた。
そのときだった。
まるで、無数の蛍が舞上がるかの様に儚げな淡い光が湧き上がる。
そしてその光はあたり一面から、そして街全体からも湧き上っていく。
そう、それは人々のほんのささやかな夢の欠片。
やがてそれは、淡く白い雪の結晶となって街中に降りそそぎ、優しく街を包み込んでいった。
そんな幻想的な光景を見ながら、今日は彩ちゃんのために楽しいクリスマスパーティにしてあげよう。
たった一晩限りだけどとっても楽しい時を彩ちゃんに・・・・・・。
ひなたは、そう思ったんだ。
そのあとのパーティはとっても楽しかったんだ。
ひなたが、クラッカーで、彩ちゃんをお出迎えしたんだよっ。
みなもお姉ちゃんのケーキは・・・、結局大丈夫だったのかな?
たこ焼きで作ってあったのには驚いたけど・・・・・・。
彩ちゃん、ちょっと恥ずかしそうにしていたけど、ミニスカサンタさんの格好、とっても可愛かったよ。
ひなたも猫さんの格好をしたんだよっ。
「にゃんにゃかにゃー」
みなもお姉ちゃんは、勤お兄ちゃんに渡されたメイドさんの衣装見て困ってたな。
結局、霞お姉ちゃんが、無理矢理勤お兄ちゃんに着させて、それ見て霞お姉ちゃん大爆笑していたけど。
彩ちゃんが、帰ってきたのが分かったんだろうね、猫さんのフォルテもお店に来たんだ。
フォルテを抱きしめた彩ちゃん、とっても嬉しそうだった。
そして、昔みたいにみんなで写真を撮って・・・・・・。
でも、楽しいお祭りの後には悲しいお別れの時が待っていた。
『街中みんなが夢を見る夜』、この夜が終わってしまうと、彩ちゃんは還らなくてはならないから・・・・・・。
笑ってお別れしようと思ったのだけど、どうしても涙が、止まらないの。
「ひっく、ぐすっ、ううっ」
「泣くな、ひなた。彩ちゃんが困ってるだろう」
泣いているひなたの頭を、お兄ちゃんがそっと撫でてくれた。
「ぐすっ、ごめんね、彩ちゃん」
「いいんです、私のためなんかに泣いてくれるのですね」
彩ちゃんもひなたを慰めてくれる。一番泣きたいのは彩ちゃんなのはずなのに・・・・・・。
「当たり前だよ、彩ちゃん大切なお友達だもん」
「うん、私達みんなの、ね」
ひなたのあとを継ぐように、望ちゃんがそう言った。
「そうね、それにあなたに作ってもらった眼鏡、私の宝物なのよ。これのおかげで、私、随分救われたわ」
そして、霞お姉ちゃんがそう言った時点で、彩ちゃんまで泣き出してしまった。
「ほら彩ちゃん泣かないで、人々の夢が多く集まる日になれば、また会えるんだから」
と、みなもお姉ちゃんが優しく言う。
彩ちゃんはその言葉に何度も頷いていた。
「そうですよ、だから笑ってお別れを」
そう言ったわかばちゃんも泣いていた。
ううん、お兄ちゃんも、みなもお姉ちゃんも、望ちゃんも、霞お姉ちゃんも、みんな泣いていた。勤お兄ちゃんなん
か号泣していたんだから。
「また会おうね、彩ちゃん」
ひなたは、涙を流しながら、それでも笑顔でこう言った。
「ええ、ありがとう。それに、今日はとっても楽しかったです」
彩ちゃんも、ひなたと同じように涙を流しながら、精一杯の笑顔で答えてくれた。
「彩ちゃん、また君が来てくれるの待ってるから」
お兄ちゃんがそう言うと、
「はいっ、また・・・・・・」
それだけ言って、彩ちゃんは淡い光となって消えてしまった。
やっぱり、彩ちゃんから涙がたくさん零れ落ちていたけれど、その日一番の最高の笑顔をしていたように見えた。
『そよかぜ』が吹いた。
その風は、彩ちゃんの消えた跡から吹いたような気がした。
だって、その風は冷たかったけれど、どこか心の温まる優しい風だったから。
朝日が部屋に差し込んできて、ひなたは目を覚ます。
そして、寝起きでボーっとする頭を振って眠気を振り払う。
「夢・・・・・・?」
そう、夢を見た。
たった一日だけ、クリスマスの夜に彩ちゃんが戻ってきたという不思議な夢を・・・・・・。
ちょっと内容が変だった気がするけど、夢とはいつもそのようなものだから・・・・・・。
でも、昨日の夢は、とても楽しくて、そして切なかった。
その中では、ひなたは『まことさん』のことを『お兄ちゃん』って呼んでいた。
恋人同士になってからあまり使わなくなった、その呼び方。
少しでも大人になって、『まことさん』に相応しい女性になりたくて、そう決めた。
そして今、髪も伸ばしている。
でも、夢の中の『まことさん』と彩ちゃんに、やきもきしたせいもあったろうか。少し甘えたくなって――いつも
甘えてばかりだけど今日は特に――また、ふとあの頃が懐かしくもなって、隣で眠っていた『まことさん』の頬に
そっとキスをして、呼びかけてみる。
「お兄ちゃん、大好きだよっ」
何か楽しい予感がする、そんなクリスマスイブの朝だった。
―――ひなたSSのオマケ―――
【ひなた】 「あれっ、まだ続くの?」
【わかば】 「ええ、というかオマケですわ」
【ひなた】 「そうなんだ。あれっ、そういえば、お兄ちゃん達がいないね」
ひなたは、辺りを見回しながら言う。
【わかば】 「望ちゃんは、少し気分が悪いとかで来れないそうですわ」
【みなも】 「紫光院(霞)さんと、橘(勤)君は、用事があるんだって」
【ひなた】 「でも、お兄ちゃんがいないね。ひなた探しに行って来るよ」
立ち去ろうとするひなたの腕をわかばが掴む。
【わかば】 「だめですわ」
【ひなた】 「どうして、わかばちゃん」
【わかば】 「一応、今回のSSの主役と言う事になっているのですから、いてもらわなくては困りますわ」
【ひなた】 「あっ、そうだったね」
【みなも】 「大丈夫だよ、ひなたちゃん。まこちゃんは、私の家にいるから」
【ひなた】 「ふーん、そうなんだ。なら安心だね」
(あれっ、なんで、お兄ちゃんがみなもお姉ちゃんの家にいて、みなもお姉ちゃんがここにいるのだろう)
不思議に思って、その事を尋ねてみようとしたときだった。
【みなも】 「ねえ、どうして正ヒロインの私を差し置いてSS書かれてるの?」
いきなり言われて、ひなたは、意味が良く分からなかった。
【みなも】 「特に、一番人気ってわけでもないし……」
【わかば】 「………(ピクッ)」
【ひなた】 (何…、みなもお姉ちゃん何言ってるの?)
少しずつ、言っている事が、理解できてくるに従って、ひなたの心は不安に駆られてゆく。
【みなも】 「それに、『まことさん』ってなーに?」
口調は、それほど厳しいものではないが、何故か、ひなたは恐怖を感じた。
【みなも】 「ちょっとお姉ちゃんが(一方的に)、お話しましょうか」
99 名前:ひなたSSのオマケ(2/8) [sage] 投稿日:03/01/19 18:11 ID:L9kHCYRM
【ひなた】 (ガクガク、ブルブル)
震えながらひなたは、かぶりを振る。
挿入歌が三周ループするほどの問い詰めに、ひなたは耐えられそうに無かった。
【 彩 】 「正ヒロインは私です。『微風』のパッケージを見れば、一目瞭然じゃないですか」
物怖じせず、ピシャリと彩は言い切った。
【みなも】 「正ヒロインって、誰の事かな、彩ちゃん?」
【 彩 】 「私のことですよ。SSではともかく、本編では正ヒロインかつ一番人気ですから」
さらに、彩は火に油を注ぐ事を言った。
【わかば】 「………(ピクッ、一番人気……)」
【みなも】 「どうやら、彩ちゃんの方が、お話(一方的に)する必要があるかな」
【 彩 】 (また問い詰めですか。馬鹿の一つ覚えみたいに……)
(それに、私には九月堂特製の耳栓がありますから)
(これさえしていれば挿入歌が三周ループしても怖くありませんよ、フフッ)
彩の自信の源は、耳栓だった。
【ひなた】 (怖いよぉ〜)
一方のひなたは、いつまた自分に飛び火するのかと気が気ではなかった。
【みなも】 「じゃ、彩ちゃん逝こうか。あと、わかばちゃん手伝って」
【わかば】 「ええ、わかりましたわ。みなもお姉さま」
【 彩 】 「……?」
両脇を、みなもとわかばに抱えられて、彩は連れ去られていった。
しばらくすると、壁の向うから、何か聞こえてきた。
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100 名前:ひなたSSのオマケ(3/8) [sage] 投稿日:03/01/19 18:11 ID:L9kHCYRM
ボスッボスッ。
【みなも】 「ふざけんじゃないわよっ!」
ボスッボスッ。
「正ヒロインは私よっ!」
【わかば】 「ヒーリングー♪(わたくしなんか)」
ボスッボスッ。
【みなも】 「それに、まこちゃんも私の物よ!」
ボスッボスッ。
「しかも何っ、最低年一回は、まこちゃんに会いに出て来るつもりなの!?」
【わかば】 「ヒーリングー♪(人気最下位)」
ボスッボスッ。
【みなも】 「あんな『へちまっ』、どこがいいってのよっ!」
ボスッボスッ。
「私はいいのよ! まこちゃんの事がどうしたって好きなんだから!」
【わかば】 「ヒーリングー♪(まっしぐらー)」
ボスッボスッ。
【みなも】 「私には、まこちゃんが口をつけた『ハーモニカ』だってあるんだからっ!」
ボスッボスッ。
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101 名前:ひなたSSのオマケ(4/8) [sage] 投稿日:03/01/19 18:12 ID:L9kHCYRM
【ひなた】 (ボスッボスッって何の音だろう)
(それに、『ひーりんぐー』って……)
(彩ちゃんどうなっちゃうんだろう)
(怖いよぉー)
ガクガク震えるひなた。
本来は、SSの主役であるひなた自身に降りかかるはずの災厄だったからだ。
(……でも、聞かなかったことにすればいいんだよねっ)
ひなたは、その場から一目散に逃げていった。
【ひなた】 「ここまで来れば、もう大丈夫だよね」
ひなたは、きょろきょろ辺りを見回した。
ふと、近くの時計が目に入る。
「うにゃっ、もうすぐお別れの時間だよ」
「ごあいさつしなくちゃ。うんと、えっと……。あれっ、彩ちゃん?」
ヨロヨロと彩がやってくる。見た目怪我などは、していないようだが……。
【 彩 】 「SS本編のサブタイトルの意味……、『夢オチ』ですか……。『とんだ茶番ですね』……」
決め台詞? を言って、フラフラと危ない足取りで去っていく彩。
【ひなた】 「………」
それを見て、真のヒロインの貫禄を感じた、ひなたであった。
一方、みなもは、というと、
【みなも】 「まこちゃん、ただいま」
「あのね、まこちゃんに纏わりつくあの女には、ちゃんと言い聞かせておいたからもう大丈夫だよ」
【ひなた】 「………」
どうやら、名を取るより実を取ったようだ。
――そして、名も実も取れなかったひなたは、泣きながら駆け去ったのだった。