睡眠グッズ
「ああ、またダメか」
GBCにゲームオーバー画面が表示される。
CONTINUEではなくENDを選んでオレはGBCを机に置いた。
「大体、3面中ボスまでノーミス前提っていうアーケードシューティング
みたいな有様はいくらなんでも間違ってるだろ」
ハードモードを選んでるのは自分だとかパターン化甘過ぎとかの
自己突っ込みを無視してダメな台詞を吐いてみる。
窓の外を見るとかなり空が明るくなり始めていた。
そろそろ少し前に摂取したカフェインが抜けてもいい頃だが
まだあまり眠くはなかった。カフェイン摂取前に運動してたのも確かなのだが。
一緒に飲んでた流菜も眠れてなかったりして。
いつもの睡眠グッズでも使って寝てしまおうかと思案していると
ノックが聞こえた。開いてると返事するのとほぼ同時にドアが開く。
枕を持った流菜が立っている。見慣れた光景だが非常に機嫌が悪そうだった。
どう言葉をかけるべきか考える。下手に刺激して怒らせるのもアレだし。
「今日は学校ないんだし無理に寝なくても……」
流菜の表情が更に険しくなった。
「学校で教わる事なんて百年も前に完成された物ばっかりだから
普通の頭の持ち主なら苦しむ方がおかしいって偉い人もいってるし」
「それ誰の言葉?」
「ムツゴロウ」
「おにいちゃん!!」
近所迷惑になりそうなでかい声が響く。
オレは慌てて立ち上がって流菜を抱きしめた。
流菜に拒絶の意志は見えなかったけれど、オレを見つめる目が怖い。
「ごめん。オレが悪かった。謝るから少し落ち着いてくれ」
「おにいちゃんのせいで眠れない」
「わかったわかった。良く効く睡眠グッズがあるから機嫌直してくれ」
カフェイン摂取は流菜の趣味だろうと言う突っ込みは即封印した。
オレはポータブルDVDプレイヤーを取り出した。一端ディスクカバーを
明けて中身を確認する。
中には怒首領蜂大往生特典スペシャルDVDが入っていた。
「睡眠グッズってそのDVDなの?」
「そう。これ見てればすぐ眠くなるよ」
「眠くならなかったら?」
「もっと強力なのがあるから大丈夫」
ならそれにすりゃ良いじゃんと言う突っ込みが有りそうだが
その強力な奴は色々セッティングが面倒なのだ。
「あたし、おにいちゃんの膝の上で見るからね」
「おいおい、オレが先に寝ちゃったらどうする気だ」
「勿論起こしてベッドまで運んで貰うよ」
うーん、まずいな。下手すればオレが寝た直後に流菜も轟沈して
椅子の上で二人で寝てまんまと二人して風邪ひくかも。
「じゃあそこの毛布持って来て。寝かすのオレのベッドでいいな?」
「うん」
ヘッドホン二つを端子に接続し一方を流菜に渡す。
流菜がオレの膝の上に座り毛布を広げるのを待ってオレはDVDプレイヤーの
リモコンを操作した。
メニュー画面で最初から再生を選び一つチャプタを飛ばす。
「これ本当にどどんぱちだいおうじょうって言うタイトルなの?」
流菜が攻略映像と表示された画面を見ながら尋ねる。
「そう。ちなみにシューティングゲームね」
タイトル画面が表示されクレジット音が鳴り機体選択画面になる。
次のエレメントドール選択で突っ込みが来ると思って待っていたのだが
来なかった。目つきが悪いプチパペットって言う説明考えたのに。
もう睡眠効果が現れたらしい。
画面が一面ボスの回転ビット攻撃を映しているころにはもう完全に
轟沈していた。
ヘッドホンをはずし、起こさないように抱きかかえてベッドに運ぶ。
流菜の隣に身を横たえ、どうやったら流菜の運動後のカフェイン摂取の趣味を
変えられるのだろうと考えながらオレは眠りに落ちた。