最近とみに必死な広告の中の人について妄想してみる
「はぅ……」
送信ボタンを押して、また一つ心の中で、ごめんなさいと謝る。
広告貼り付けのアルバイト。掲示板で楽しくやりとりしている皆さんを不快にするお仕事。
とっても憂鬱になるお仕事。一つ貼り付けるたびに、そこの皆さんにごめんなさいと詫びずに
いられない。
でも、私にはやるしかない。病気のお母さんの世話をしながら働ける、家でできる内職は
とても少ない。特にこの不況の時代には。やるしかないんだといつも心に言い聞かせてる。
他にも五つほど内職を掛け持ちして、一日のうちお母さんの世話と必要最低限の生活活動の
時間以外はすべてこれらに充てている。それでやっと。どれか一つ仕事がなくなったら生活は
立ち行かなくなってしまう。仕事を増やそうにも時間がない。一杯一杯だ。
「うぅ……」
呻き声に目をやると、お母さんが布団から起き上がろうとしていた。
慌ててお母さんの寝ている布団の傍に駆け寄る。
「お、お母さんっ? 寝てなきゃ駄目だよ」
「うぅ……ごほっ、ごほっ。また、仕事かい?」
「う、うん……」
返事が鈍る。人様の迷惑になる、それも後ろ暗い仕事をやっているなんて、とても言えない。
人様に迷惑をかけることだけはするな、昔まだお母さんが今より元気だった頃、散々聞かされ
た台詞だ。
そんなお母さんを悲しませることだけはできない。お母さんとの生活だけが私の生きがい
だから。
「すまないねえ……。おまえの年頃なら、学校に通って、勉強に恋に遊びに人生の楽しいときを
送っているはずなのに。こんな惨めな生活をさせて・……ごほっ、ごほっ」
「ほ、ほら。お母さん、寝てなきゃ駄目だよ」
咳込んだお母さんの背中を擦る。
そんなこと言わないで。私はお母さんといられるだけで幸せだから。惨めだなんて思ってない
から。
「こんな状態でだらだら生き延びるなら、いっそ……。そうすれば、おまえだって自由に――」
「お母さんっっ!!」
思わず大声を出してしまう。私に怒鳴られてお母さんはよりいっそうしゅんと項垂れてしまう。
「ご、ごめんよ。ただ、判っておくれ。お母さんは、おまえに幸せになって欲しくて……」
「だったら、二度とそんなこと言わないで。私に幸せになって欲しいと思うんだったら、早く
元気になって。今度そんなこと言ったら許さないからね」
「ごめんね。ごめんね」
謝りながら、再び布団にもぐりこむお母さん。そして枕元にある写真立てをとって呟く。
「ごめんなさい。あなた・・…」
あなた。私のお父さん。今はもういない。命をかけて私たちの生活を守ってくれたお父さん。
お父さんが友人の借金の保証人になって。私たち一家は一気に借金地獄に落ちてしまった。
その借金を返すために、借金取りに終われる毎日から解放されるために、お父さんはその命を
代償にした。
元々体が丈夫でなかったお母さんはそのショックもあって体調を酷く崩した。
だから、今度は私が守るんだ。なにがなんでも。例え世界中の人から憎まれても。お母さん
とのこの生活を守るために。
でもやっぱり心は痛む。
『広告Uzeeeeeeeeee!!!』なんて書かれてると自分のやってる現実を突きつけられて、泣き
たくなる。
それに貼り付けるのが、と、とても、え、えっちな……お、おま…ことか、まるみえとか……。
思わず赤面してしまうような内容で。恥ずかしくて堪らないのです。
この仕事を紹介してくれた中学のときの先輩によると、
「あん? なに、あんた、そんなこと気にしてんの? 大体こういうのはスクリプトでボタン
一発なのよ?」
だそうなのですが、私はどうしてもその『すくりぷと』を使う気になれない。
掲示板を見ている方々をとても不快にさせることだから、そんな行為を代償もなく行うなんて
できない。勿論、それは偽善だ。私が少しでも苦労することで贖罪したような気分になるだけの
ただの欺瞞だ。でも、私には……。
だから、今日も私は、先輩から借りた、曰く『二昔前の』パソコンに向かって、迷惑行為を
続けるしかないのだ。
ごめんなさい。掲示板の皆さん。
私は天国に行こうなんてあつかましいこと考えてません。ただ、この生活だけは……。