沙耶エンド後
気がつくと女がいた。
そいつは俺を見て楽しそうに笑っていた。
「なかなか美しい世界じゃないか、君」
明瞭な音声で女が言う。
眼鏡をかけ、髪を後ろで纏めている。豊満な肉体にラインがはっきりと分かる衣装。
そう、見えた。
「何者だ?」
俺は訊く。
「こんなところにまで繁殖するなんて、彼女たちの貪欲さは敬服に値するよ」
問いには答えず、女は呟いた。
「まあ、僕が最も尊ぶのは人だけどね」
真っ赤な唇から、からかうように言葉が零れる。
嘘だ、と瞬間的に俺は思った。
「何をしに来た?」
俺は質問を変える。
「大したことじゃない」
今度は回答が返ってきた。
やはり軽い口調は変わらないが、今の言葉は真実のように思えた。
「ふらりと立ち寄ってみただけだよ。退屈しのぎにね」
「……こんなに遠くまで?」
「ちょっとした散歩さ。僕には距離とか空間とか、あんまり関係ないんでね」
カマをかけた俺に、女は何でもない、といった様子で答えを返した。
「まあ、散歩とはいえ、目的もなく来たわけじゃない」
女の笑みが深まる。より昏く、より鮮やかに。
そして、奴は言った。
「匂坂郁紀くん。彼女の遺体はどこだい?」
久しぶりに聞いた俺の名はまるで呪詛のようで、
魂が、軋んだ。