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はぴねす『準』
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名前: はぴねす『準』 2006/04/13(木) 00:00:07 ID:wCU07zhe0
睡眠から私は目を覚ます
「う〜ん今日もいい天気ね」
窓から外の景色を眺めながら、登校するための支度をする
いつもの通学路
ハチと一緒にしばらく待つと二人の男女が歩いてくる
「最近時間通りじゃない、雄真」
「すもものおかげだよ」
「すももちゃんに感謝しなきゃね」
「ほら、喋ってないで行くぞ」
いつも通りの朝にいつも通りの軽口を交わして私たちは学園に向かう
四人ずっと変わらない関係
いつまでこの関係が続けられるのかそれは分からない
でも、私には大切なものだった
「おはよう、小日向君」
「おはよってか、俺の机からどいてくれ柊」
「まぁまぁ、朝からそんなケチくさいこと言わないの」
「あのなぁ。なんで俺の机が集合場所になってんだよ」
「春姫はここにいるんだし、別にあんたの周りに集まってるんじゃないわよ」
「はいはい」
「もう雄真ったら、朝からこんな可愛い子達に囲まれて
幸せものね〜」
「待て。お前は断じて違うぞ」
「もう、照れちゃって可愛いんだから」
「違う!!」
賑やかな会話
気が付くと雄真の周囲はいつも女の子で囲まれていた
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名前: はぴねす『準』 2006/04/13(木) 00:28:15 ID:wCU07zhe0
魔法科とクラスが合同になってからというのも
雄真と春姫を近づけさせようと、いろいろ画策
してみたものの今ひとつ効果がないまま時間だけが経過していた
(う〜ん、春姫ちゃんじゃないのかなぁ…だとしたら
すももちゃん?杏里ちゃんなのかなぁ…)
やはり、雄真の様子を見る限りでは一番可能性が
高そうなのは春姫だった
授業中自分の席から雄真の方を見つめる
すやすやと、教科書立てて眠っている
(もう、雄真ったら)
ずっとそちらを眺めながら、ふと思いつく
(もし、私が本当の女の子だったら、雄真は私を
選んでくれるかな……)
それはいつも頭をよぎる邪念だった
私は雄真の一番にはなれない
だからこそ、雄真の恋を応援しようと誓ったはずなのに
雄真を見るとそんな思いが湧いてくる
(はぁ……まぁ、仕方ないよね)
そう呟いて私は自分を納得させた
放課後、今日は特になにもない
「ってことで、雄真、一緒に帰ろ〜」
「なにが『ってことでなんだ』なんだ!つか腕を絡めるな!!」
「今日は特に私用事もないし、どこかで遊んで帰らない?」
「あぁ、別にいいけど。他に誰か誘うか?」
「そうだね…あ、春姫ちゃん、今からどこか遊びに行かない?」
「え?…あ、ごめんなさい。今日は杏里ちゃんと用事があるから」
「あ、そうなんだ…じゃあ杏里ちゃんも駄目ね」
「ごめんなさい、また誘ってね」
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名前: はぴねす『準』 2006/04/13(木) 00:47:52 ID:wCU07zhe0
教室の中をグルリと見回す
「あれ?ハチは?」
「ん?ハチならさっき『アニメの録画を忘れた!!』とか言って
慌てて帰ったぞ」
「そんなキャラだっけ……ってことは今日は雄真と
二人っきりってことね///」
「だったら別に行かなくてもいいだろうが!!」
「駄目駄目。ほら時間はそんなにないんだから、早く早く!!」
「わかった、わかったから、押すんじゃない!」
玄関口まで来てポカンと立ち止まって空を見上げる
「あー、なんでさっきまで、あんなに晴れてたのに急に降ってくるんだ?」
わなわなと震えながら空を睨みつける
「もぉ〜、なんでこんな時に降ってくるのよ〜」
ほんの少し前まで晴れていた空は今は厚い雲に覆われていた
振り出した雨は当分止みそうもない
「これは、きょうは遊びに行けないな準」
「せっかく、楽しみにしてたのに……」
「また、今度な。しかし参ったな、傘なんて持ってきてないし」
「そうよねぇ……あ、そういえば」
「どうした?」
「こんなこともあろうかと、置き傘してたのを忘れてたわ」
「なにぃ!?」
「乙女の嗜みってやつよ。少し待ってて。教室まで取りに行ってくるから」
「お待たせ!」
「おう、じゃあ帰るか」
そう言うと、何故か雄真はカバンを頭の上に構えた
「なにしてるの雄真…?」
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名前: はぴねす『準』杏璃ごめん 2006/04/13(木) 01:12:53 ID:wCU07zhe0
「はぁ?なに言ってんだ?走らなきゃ濡れちまうだろ?」
「もう…なんの為に私が走って教室まで取りに行ったと思ってるの」
「って…ちょ…まさかおまえ……」
「さ、仲良く一緒に帰りましょうね〜」
「馬鹿言え!?そんなファンシーな柄の傘に男二人で入れるか!!」
「仲の良いカップルにしか見えないわよ。ささ、帰りましょうね〜」
「そ、そんな声だすんじゃない!」
ズルズルと抵抗する雄真を引っ張って私達は外に出た
「一度やってみたかったのよね〜あ・い・あ・い・が・さって☆」
「変なこと言うな。…つーか、お前だったらいつでも出来るんじゃないか?」
「もう、雄真と一緒じゃないと意味ないの」
「はいはい、わかったよ……」
非常用において置いた傘はそんなに大きくない
私は、雄真が濡れないようにそっと傘を傾けて身を寄せる
「おい、準、くっつき過ぎじゃないか?」
「しかたないじゃない。傘が小さいんだから」
「ってもなぁ……ん?」
雄真のほうに体を寄せて歩きながら、私は考える
(はぁ…女の子だったらこうゆう時、胸を押し当てたりしてアピールできるのに)
自分胸をに視線を落とす
ここら辺が超えられない壁のひとつだった
「おい、準」
「…え?どうしたの?」
「貸せ」
半ば強引に私の手から傘を奪い取る
「あ!ちょっと…」
「お前が濡れてんじゃねーかよ。俺のほうに傘向けやがって、
それでお前が濡れたら意味ねーだろうが。それになんつうかやっぱり
そのこの場合は俺が傘を持つほうが正しい気がするしな。お前は見た目は
女だから、俺が格好悪いだろ」
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名前: はぴねす『準』 2006/04/13(木) 01:38:25 ID:wCU07zhe0
「雄真……み、見た目だけじゃなくて、心も女の子だよ」
「あぁもう、懐くな!ネコかお前は!」
(私にだってこんな風に優しいから……)
だから……ついありえない期待をしてしまうのか
それは……言い訳なのかもしれない
「今日、私の家誰もいないのよね〜」
「そうなのか?」
「可愛い一人娘をほったらかして何処に行ってるんだか」
「大変だな……お前の親も」
「どうゆう意味なのかしら〜」
「そのまんまの意味だが」
そうこう会話をしてる内に家の前まで来る
「あぁん、もう着いちゃったのね。ねぇ雄真もう一周しない?」
「するか!!」
「残念ね。でも、また今度しましょうね…くしゅん」
「次は、傘を忘れないようにするからな」
「ふふっ。釣れないわねぇ…くしゅん」
「じゃあ、この傘借りてくからな。明日の朝返すよ」
「うん、それでいいわよ…くしゅん」
「おまえ…大丈夫か?やっぱ結構濡れただろ?」
「大丈夫よ、これくらい。雄真も早く帰らないと、だんだん雨酷くなってきてるわよ」
「あぁ…ほんとに大丈夫なんだな?」
「んもう、そんなに、くしゅん、私のこと心配してくれるなんて、雄・真・」
「変な風に呼ぶんじゃない!!じゃあ、俺は帰るからな」
「今日は、楽しかったわ。また、明日ね…くしゅん」
玄関を開けて家の中に入った瞬間に、ふらっと眩暈がする
「あれ……?」
視界がはっきりと定まらない
私はそこで気を失った
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名前: はぴねす『準』 2006/04/13(木) 01:57:16 ID:wCU07zhe0
「ただいまー」
強くなりだした雨脚に、俺は急いで玄関の扉を開ける
「あ、兄さん。お帰りなさい。雨、大丈夫でしたか?」
「いきなり降って来るんだもんなぁ…」
「すももは大丈夫だったのか?」
「私は、置き傘してありましたから」
「女の子はさすがだな」
「兄さんは…その傘…」
「あぁ。準の奴が置き傘してたおかげで助かったぜ。さすがにこの
傘は恥ずかしかったが、仕方ないだろ」
「準さんに感謝ですね」
「まったくだな」
一息ついて、リビングに向かう
テレビを付けるとちょうど天気予報が流れていた
「しばらく…止みそうにないか……」
そこで俺はあることに気付いた
「……っておいすもも!今日母さん、傘持って行ったか!?」
「…え?あ、そういえば……」
どうやらもうひと仕事あるらしい
「俺が届けに行ってくる」
「外、酷い天気ですよ」
「しょうがないだろ」
そう言って玄関に掛けてある母さんの傘を手に持って俺はもう一度外に飛び出した
「はぁ…なんとか母さんが帰る前に間に合ったな」
俺が傘を届けに来たことを知ると母さんはものすごく喜んでくれた
「じゃあ、俺もさっさと帰りますかね―――」
そこで、頭の中に一人の顔が浮かび上がる
「あいつ…ほんとに大丈夫だったのか……」
どうしても頭から、別れる間際の顔が離れない
「えぇい、クソ!!最後にくしゃみなんかしやがるから!!」
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名前: はぴねす『準』 2006/04/13(木) 02:21:44 ID:wCU07zhe0
「はぁはぁ……」
一時間ほど前に来た場所に俺は再びいた
雨の中を走ったせいで、だいぶ濡れている
呼吸を整えて、俺は呼び鈴を押した
「…………………?」
もう一度押してみる
「……………………」
やはりなんの反応もない
「なんだ、準の奴いないのか。とんだ無駄骨だったな…」
カチャ――
なんとはなしにドアノブに触れるとそれは音を立てて開いた
「あれ……?」
無用心だなと思いながらゆっくりドアを開く
中を見渡せば―――
「準!?お、お前!どうした!大丈夫か!?」
玄関で準が一人で倒れこんでいた
俺は駆け寄って、抱き起こす
「はぁはぁ…あれ…?はぁはぁ…どうしたの…私に…会いたくなった…?」
「んなこと言ってる場合じゃないだろうが!?」
準の額に手を当てる
「すげぇ、熱いじゃねえかよ!!ああ、もう、入るぞ」
出来るだけ優しく抱きかかえて準を部屋まで運ぶ
「はぁはぁ…ふふっ…これって……お姫様…抱っこ…よね…」
「なっ――!あぁ、もういい」
部屋のドアを開けて、そっとベッドの上に寝かせる
「まさか、あれからすぐ倒れたのか?」
「あれからって…どれぐらい経ったの……?」
「一時間くらいだ」
「…そうなんだ……」
「まったく、お前は……俺がこなかったらどうするつもりだったんだ」
「……ごめんね…雄真…急に力が…はいらなくなっちゃって…」
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名前: はぴねす『準』 2006/04/13(木) 02:42:47 ID:wCU07zhe0
「ん……あぁ、そうか悪い。辛かったら無理に喋らなくてもいいからな」
「ううん……大丈夫…さっきよりは…楽になったから……でも……」
「?」
「どうして…雄真…戻ってきてくれたのかな……?」
「え、いや別に、母さんに傘を届けに行ったら、さっきお前がくしゃみしてたの
思い出してな、両親もいないって言ってたから、気になって来てみたんだ」
「ごめんね雄真……本当に心配させちゃったんだね」
「そんなことで謝るなよ、俺達の仲だろ。なんかあった時はいつだって
言えばいいんだぞ」
「うん……うん……雄真……」
「ば、ばか、泣くなよ!男だろ」
「だって……雄真が優しいから……」
「ほ、ほら、汗かいてるし着替えだ着替え、ここか?」
適当にクローゼットを開ける
「う……準…自分で着替えられるか?」
「…ごめんね…身体が…動かせないの……」
「わかった」
どうやら俺がやるしかないようだ
俺は意を決して、クローゼットを占める女物の服の中に手を入れた
「……ん…あっ…!!…雄真ぁ……」
「……………」
「だめ……そこは…んふぅ……はん…っ///」
「……………」
「や……っ…ん…ぁぁ……だ…め……」
「……………」
「ひゃん!……ぁうぅ…やぁ……ゆ、雄真ぁ……」
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名前: はぴねす『準』>>615乙 2006/04/13(木) 03:06:02 ID:wCU07zhe0
「ええい!着替えさせてる時に、変な声出すんじゃない!!」
「はぁ…はぁ……ゆぅまぁ……」
何故か先ほどよりも息絶え絶えな準
(はぁ……着替えさすのに……この苦労かよ)
「お前の両親は帰ってくるのか?」
「ううん……」
「そうか」
俺はポケットから携帯を取り出すと、家に電話を掛ける
「あ?すももか?…実はな準が………あぁ……そういうわけだから…
たぶん今日は帰れんと思う……明日?大丈夫だ…ああ…悪いな」
「あの……雄真?」
「だれもいないってのに、こんな状態のお前を置いてけるわけないだろ」
「でも……」
「病人は黙って言うことを聞くもんだ」
「分かった……」
「ん、じゃあ俺は下でなんか作ってくるから、
まぁなんかって言ってもおかゆだけどな。それでいいか?」
「ありがとう……雄真」
「ん」
雄真が部屋から出て行くと、私一人が部屋に残される
正直なところ、玄関先で倒れて動けなくなったまま、ずっと一人で心細かった
雄真が来た時はまるで――
(まるで、助けてって私の声が届いたみたい……)
病気で気弱になっているいま、雄真の優しさは胸の内に秘めた思いを暴露
させてしまいそうになるほどに嬉しくて、辛い
ずっと、昔からアプローチし続けてきた
好きといい続けてきた。けど、その先には怖くて踏み出せなかった
もし、はっきりと拒絶されたら、自分は今の居場所も失ったしまう
そばにもいれなくなってしまう。それが怖かった
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名前: はぴねす『準』 2006/04/13(木) 03:21:51 ID:wCU07zhe0
でも、あれだけ優しくされたらもう駄目だ
自分に嘘がつけない
「雄真……好きだよ……雄真…」
「おい、準出来たぞ」
お盆を抱えて、私のエプロンをした雄真が入ってくる
(か、可愛い……)
「自身作だ。ほら、食べれるか?」
「ん……」
息を吹きかけて、ゆっくり口に運ぶ
「美味しい……」
それはいままでで最高に美味しいおかゆだった
「そうだろう、自信作だからな。しっかり喰って早く直せよ」
「さて、もう寝たほうがいいぞ」
食事も終わって、雄真がそう言ってくる
ただ、私は今日を終わらしてしまうのが勿体無いような気がした
「そう……よね……」
「…ん?……あぁ、心配するな。俺もここにいてやるから、安心して寝ろ
病気の時は誰であろうと傍にいてほしいものだしな」
「雄真……眠るまで…手握っていい…?」
「やれやれ。今日だけだぞ」
私はこくこくと頷く
「俺もこの部屋で寝るからなんかあったら起こすんだぞ」
そういって部屋の明かりを消す
私は雄真の掛けた魔法が解ける前に、人生で最大の覚悟を決める
「ねぇ……雄真…もうひとつ最後の…お願いしていい?」
「んん…?なんだ?」
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名前: はぴねす『準』 2006/04/13(木) 03:35:12 ID:wCU07zhe0
雄真も、もう眠そうだ
当たり前だ。ずっと付きっきりで看病してくれていたのだから
私は、震える唇で言葉を紡ぎ出す
「……眠る…前に…最後に…キス…して…」
「な!?お前………」
雄真が悩んでいる
それもそうだ。私は男なんだから…
でも、溢れた思いは留められない
もし、雄真がしてくれなかったら私はキッパリ諦めよう
もし、雄真がしてくれたら私は――
今までの私から踏み出そう
冗談にするんじゃなくて、本気で―
風邪を直して学園に行くその日から―
春姫ちゃんも、杏璃ちゃんも、すももちゃんも、小雪さんもみんなのライバルとして―
意識がまどろんでくる……
(お願い……雄真ぁ///)
「……おやすみ……準……ちゅっ」
おしまい
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