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『準・散歩』

『準・散歩』2006/04/18(火) 17:37:03 ID:uS+XUA+x0
「んーーーー」
俺は力いっぱい伸びをする

春の暖かい日差しが降り注ぐ
澄み渡る空。いい日和だ

「気持ちいいね」
俺の隣には準が一緒に歩いている
「そうだなぁ、たまにはこうして散歩に出るのもいいな」
朝、窓から差し込む陽光を浴びている内に
外に出たくなって、俺達は特にアテもなく散歩している

「ね、雄真」
「?」
ふいに準が手を出してきた
「………お手?」
「もう!なんでよ、手、繋ぎましょう」
「あぁ……そういうことか」
差し出された手を俺は軽く握る
同じ男だというのにその手は驚くほど小さい
「えへへ〜♪」
満面の笑み
その笑顔を見て、つい自分の顔が緩むのを感じる

二人、他愛のない話をしながらのんびりぶらつている
「あれ、ここ?」
いつの間にか俺達は見覚えのある場所にいた
とても懐かしい場所―
「ねぇ、雄真、あの木まだあるのかな?」
「なくなるようなもんでもないし、あるんじゃないか?」
「行ってみようよ」
「そうだな」
『準・散歩』2006/04/18(火) 17:56:32 ID:uS+XUA+x0
 私達は公園の中心まで歩いていく
「お、アレか」
雄真の声の先に目を向ける
そこには、美しく満開に桜の花を咲かせた大きな木が立っていた
「………綺麗」
そううっとりと呟いて、木に触れてみる
なにもかもあの時のままだ
「ねぇ、雄真憶えてる?」
私と同じように目を細めて木を見上げている雄真に問いかける
「憶えてるさ」
それは、ずっと昔のある日の出来事――


その日、私は一人で公園に来ていた
誰かを誘おうにも友達がいない
女の格好をしてる私は声を掛けることも出来ずにいつも一人で遊んでいた

「おいかくれんぼやろうぜ」
その時、広場のほうから声が聞こえた
どうやら、この公園でかくれんぼをして遊ぶらしい
「いいなぁ……」
そうは思っても、私からいれてなんて言えない
きっと断られてしまうから……
「あ!」
ずっとあちらを見ていたのがわかったのか、ひとりの男の子と目が合った
(あれ……?でもいまのは……)
とことことその子がこちらに近づいてくる
私はその子に見覚えが会った
学校で唯一私に、親しく話しかけてきてくれる男の子
「ゆうま…くん?」
「どうしたんだ、おまえ一人なのか?」
誰かいないのかと辺りをきょろきょろ見回す
『準・散歩』2006/04/18(火) 18:20:16 ID:uS+XUA+x0
「う、うん……」
(どうしよう……友達のいない奴とか思われたら……)
それは嫌な想像だった
考えると目にじわっと涙が浮かんでくる
「そっか、じゃあ一緒に遊ぼうぜ」
「………え?」
「お前、一人なんだろ?だったらみんなで遊んだほうがいいって」
「でも、あの……」
「ほら、行くぞ」
「きゃっ!!えっ……!」
私の手をしっかり握って、走り出す
(この手を握っていれば、私もみんなと遊べるのかな?)
その手はとても逞しかった

ゆうまくんがわたしを連れてくるとあっさり参加が決まった
「えっと、どこに隠れれば……」
「ほら、そんなもたもたしてたら捕まっちゃうぞ、こっちに来い」
私が初めてやるかくれんぼに戸惑っておろおろしてると、その度にゆうまくんが助けてくれた

「じゃあ、次はゆうまが鬼な」
「おう」
かくれんぼの鬼が何度か変わると、今度はゆうまくんが鬼の番になった
「ど、どうしよう……しっかり隠れなきゃ」
すぐに見つかってしまわないように、私は隠れる場所を探す
「そうだ!」
確かこの公園の奥に大きい桜の木があったはず
それを思い出して私はそこまで掛けて行く
「はぁはぁ……ここならすぐには見つからないよね」
どきどきしながらその木の陰に身を潜める
「…………ま、まだかな?」
覗いてみるが、こちらに来る様子もない
そうしてる内に、体力のない私はたくさん動いたためか眠くなってくる
『準・散歩』2006/04/18(火) 18:37:03 ID:uS+XUA+x0
(あれ…………)
だんだんと意識が遠くなって私は眠ってしまった


どれだけ、時間がたったのだろう
さっきはまだあんなに高かった太陽が今はだいぶ傾いている
「あっ!!そうだかくれんぼ!!………?」
隣で違和感を感じる
「え……?ゆうまくん……?」
私が動いたためか、隣で寝ていたゆうまくんが目をさます
「ん〜〜ん、むにゃ……あ?見つけたぞ」
目をさましていきなりそんなことを言う
「あの……」
「おまえ、見つけたら気持ちよさそうに寝てるんだもんなー」
「ごめんなさい…」
「しかも、すっげー探したんだぞ」
「うぅ……ごめんなさい」
泣きそうになってくる
「でもさ、」
「?」
「おまえかくれんぼ上手いな」
「んんっ!?」
ニコッと笑うゆうまくんを見て、胸がドキっとした

「ね、ねえ、ゆうまくんはみんなのところ行かないの?」
かくれんぼにはあきたのか、ほかのみんなは広場で鬼ごっこをしていた
「おまえを探すのに疲れたの」
「う……ごめんね」
「あーもう、あやまんなくいいから」
「う、うん」
「だいたい、俺はおまえと遊びたいの!」
「え………?」
『準・散歩』2006/04/18(火) 18:56:09 ID:uS+XUA+x0
目の前にいる少年がなにを言ったのか理解できない
「それにさ、おまえ、遊びたいならいつでも俺に言えばいいんだぞ?」
「で、でも………」
考えがまとまらず混乱する
「一人で遊ぶより楽しいし、友達だろ?」
「…………友達……」
初めて男の子からそんな風に言われて私の顔は赤くなる
「それからさ、」
こっちのほうをまじまじと見つめる
「な、なにかな?」
「おまえ女の子みたいだけど、男だよな?」
「う、うん」
「じゃあ、『準』って呼んでいい?」
初めて私はそう呼ばれて―

「うんっ!」
私は力一杯頷いた



「ほんとに懐かしいね」
昔の事を思い出しながら、言葉を口にする
「私ね、考えてみたらあの頃から雄真の事好きだったのかも」
「そうなのか?」
実際はどんな感情だったのか
ただ言えるのは、昔の私もいまこうあること望んだはずだ
「そうだよ」
繋がれている手を見つめる
「あの頃から、ずっとこの手に引っ張ってもらって来たんだね……」
いまも変わらず私を捕まえていてくれる、その手
あのときよりもっと逞しくなっていて
「ねぇ、雄真」
『準・散歩』2006/04/18(火) 19:06:34 ID:uS+XUA+x0
「来年もまた、ここにこうしてこられたらいいね」
桜の花が舞う中で
「そうだな。来年も、再来年もずっとこような」
私達は大切な約束を交わす

「さて、うん。桜も堪能したし帰ろっか
「そうだな、すこし腹減ったし」
「じゃあ、なにか作ってあげるね、なにがいい?」
「うーーん、悩むなぁ……」
「それとも、わ・た・し・☆」
「あぁもう、ピッタリくっついたら歩きにくいだろ!?」
「だーめ。帰りは腕を組んで帰るんだから♪」

最後にもう一度だけ振り向く
(ありがとう………)
その景色を心に焼き付けて
私は心の中でお礼を言った

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