Lesson At The Nigtht

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…………まだ、瞼の奥にマズルフラッシュの参照が残っている。

 真っ暗な天井に浮かぶ光の影を眺めながら、僕はいつになく物思いに耽っていた。

 荒野を照らす月明かりが格子窓から射し込む。日が落ちてからもう、かなりの時間がたっていた。いつもなら、疲れ切って眠っている筈の時間。しかし今夜に限っては、何故か気が昂ぶる。眠気がしない。

―――なにかがおこる。

 自分の内から、そんな声が聞こえるようだった。

「……起きてるの?」

 だから、なのだろうか。そんなアインの声が聞こえた時も、僕はさほど驚きはしなかった。

「うん、なにか……眠れなくって」

 天井の光のシミを眺めなら、僕は答える。視界に彼女は入ってはいなかったが、気配で彼女が近くにいることがわかる。

 日頃の訓練の成果か、それとも彼女がそのようにしているからか……。

「そう……丁度よかったわ」

「何かあるの?」

 夜間戦闘の練習だろうか? そんな事を考えながら僕は身を起こす。と、その瞬間、僕は信じがたい音を聞いた。

―――シュル

 僅かな衣擦れの音。驚愕に僕はアインに目を向ける。

「訓練よ」

 アインの表情は、いつもとこれほども変わってはいない。

 しかし、その彼女の肢体を覆うものは無く、白々とした月光に裸身を曝していた。その光景が僕には、妖精かなにか、幻想的なモチーフの絵画の一場面のように見えた。

「く、訓練? 何の訓練だい?」

 声が上ずっている。アインの美しさと、そしてこれから起こる事への期待とに。

「SEX」

 拍子抜けするくらいはっきりとした回答。そしてアインは、普段と変わらぬ歩調で僕の方へと歩む。

「……SEXって……なんでそんな」

 僕は、どぎまぎしながらも彼女から目を離すことは出来なかった。普段意識したことのない彼女の「女」が、僕の視線を捕らえて離さない。

「潜入、潜伏、ターゲットへの接近等に有効な手段だからよ」

「……それって、ターゲットとかと……その……SEXをして……」

「そういう使い方もするわ」

 ゆっくりとアインの手が僕の頬に触れる。いつの間にか、彼女は息が届くほどの距離にいた。

「動作の速度はナイフを使った暗殺の時と同じ位。速すぎず、遅すぎず、人間が警戒を抱く速度ぎりぎりを常に意識して」

 繊細な指先が頬を、首筋を撫でる。それだけで、背筋が震えるような感覚が僕を襲った。

「性感帯は男女ほぼ同じ。感覚が敏感な部分……皮膚の柔い場所や粘膜が露出している部分はほぼすべて性感帯と考えていいわ」

「……くぅ……うあっ……」

 二度、三度と指が往復する。そのたびに、僕の口から女の子のような声が漏れる。他人に触れられると言う事が、こんな感覚を生むなんて、僕はそのとき初めて知った。

「でもね、一番の性感帯は……ここ」

 アインは、愛撫の手をだんだんと下げて行く。首筋から鎖骨、鎖骨から胸へと。そして、僕の胸板の上……丁度心臓のあたりで手の動きを止めた。

「……胸?」

 アインの掌の暖かさが、破裂しそうな勢いで鼓動する心臓にまで伝わってくる。まるで、心臓を直接愛撫されているみたいだった。

 しかしアインは、僕の回答にかぶりを振り

「こころよ」

 そう、短く答えた。

「心、って……」

 一瞬、意味が読み取れず呆ける僕。その僕にアインはゆっくりと身体をもたれさせる。

「"I love you"」

 そして、唐突に耳元で囁いた。

「え、ええ?」

「愛してるわ、ツヴァイ。この世の誰よりも、何よりも。あなたを愛してる」

 夜闇のようにどこまでも深い瞳を微笑ませ、彼女は僕に口付ける。さっきの愛撫とは全然違う。技巧も何も無い、ただひたすらに触れ合おうとするような、交じり合おうとするようなキス。

「ア、アインいきなりどうしたんだよ!?」

「聞いて。私の胸、張り裂けそうなほど高鳴ってる。あなたがいるから。あなたと触れ合っているから。あなたを……愛しているから」」

 アインは、僕の顔を抱きかかえ、囁く。やわやわと、たしかに柔らかいアインの乳房の感触を頬に感じる。

 今まで意識していなかった”女”としてのアイン。柔らかく、しなやかな肢体。滑らかで、あたたかな肌。優しい、心地いい匂い。

 とくんとくんと速い彼女の鼓動は、僕を感じているからなのだろうか?

(……だとしたら……)

 つられるように、僕の鼓動もどんどんと速くなってゆく。顔が熱い。赤くなった顔を彼女に見られていないか、少し心配になった。

「こんな風にするの」

「…………へ?」

 拍子抜けするように僕はアインを見上げ……いつもとまるで変わらぬ彼女を見つけた。

―――夜闇よりも深い瞳の、完璧な猟犬―――

 僕を胸に抱いて心臓を高鳴らせていた少女は、もうどこかに消えていた。

「……演技……なの?」

 まだ手の中に残るアインのぬくもりが、聞こえていた鼓動の音が、今の全てが、幻だったようで、僕は思わず呟いていた。

「そう、大方においては同じよ」

「……同じ?」

「あなたの中に一つのペルソナを作るの。目の前にいる人間が好きで好きでたまらない。そんな、もう一人の自分を」

「…………」

 ようやく、僕は理解した。

 幻とか現実とか、そんなレベルではない。

 彼女は、今の全てを技術として習得しているのだと。

「……でも、自分がそう思ってもしょうがないんじゃないの? 相手にそう思わせないと……」

「心は伝わるわ。言葉を通して、触れ合う身体を通して。それは今のあなたならわかるでしょう? 一瞬でも、私をいとおしいと思った。そうでしょう?」

「…………」

 無言で頷く。少なくとも、今の彼女から”女”を感じることはできなかったから。あのときの彼女を、愛おしいと思ったから。

「それじゃ、やってみて」

 今度は、アインが身体を横たえる。しかし、僕にはどうしていいかまるで分からない。全裸の女性は生で見たことすら……考えてみれば初めてのことだ。

「……どうすればいいの?」

「”愛してる”。言ってみて」

 表情一つ変えず、アインは言う。無機的な口調に”愛してる”という台詞は奇妙に似つかわしく、そして何故か鋭く聞こえた。

「……あ、愛してる」

「照れないで。あなたは、私のことが好きなのでしょう? 好きで、好きでたまらないのでしょう?」

 アインの静かな声が耳に響く。そう、僕は彼女が好き。どうしようもないほど好き。そう、思いこむ。

「愛してる」

「聞こえないわ」

「愛してるっ!」

「大声を出してもダメ」

「愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してるっ!」

―――愛してる。

 僕は、アインを愛してる。

 愛してる。

 愛してる。

「愛してる。僕は、きみを愛してる」

 きゅ、と暖かな感触が首に巻き付く。

「嬉しい」

 短く言ったアインの声が、僕にはたまらなく嬉しかった。

 僕は、アインを愛してるのだから。

「ア、アイン。キス……していい?」

「あなたのしたいようにして」

 アインの許しを出た瞬間、僕は飛びつくように彼女の唇を奪った。

「んむむ……あんん…………んんんんん」

 柔らかい唇の感触が、僅かに漏れる声が、甘やかな吐息が、初めて感じる快感を与えてくる。

 いつまでもこうやって、舌と舌を絡め合って、唇を貪って、快感を分かち合っていたかった。

「んん……はぷ。アイン、好きだよ」

 意識せず、そんな言葉が出た。

「はむ……あむ……んんん……。愛してる。愛してるよ」

 そして、再び唇を重ねる。二人分の唾液を絡めあいながら、柔らかな舌に巻きつくように愛撫する。

 敏感な舌下に舌を這わせ、まるでお互いに奉仕するように擦り合う。

 舌先でキスするみたいにつつきあう。

 口腔の隅々を、犯しあうように舌を躍らせ快感を分かち合う。

 幾度と無く、僕達はお互いの唇を貪る。キスという行為だけで、こんなにも深く感じ合えるなんて、僕は想像すらしたことはなかった。

「んん、あん……あむぅ……んんっく」

 唇を交わせながら、アインの胸に手を伸ばす。彼女が教えたように、ゆっくりと、優しく。

「……んん。そう、焦らないで。……あむっ、ふむぅ……優しく……私を、愛して……んんっ」

 柔らかい小振りな膨らみ。力一杯揉みしだくなんてことは出来ないけれど、貼り付くみたいに、掌を優しく這わせれば、ちゃんと心地いい感触が返って来る。

「ふぅ……ああっ……あむ、んんん……」

 初めて聞くアインの高い声。たどたどしい僕の愛撫に感じている。それが嬉しくて、僕はもっと彼女の身体に掌を這わす。

「ぅうん……胸だけじゃ、なくって……他も……くぅ…………首とか腋とか…………」

 指示に応じて、触れる手を動かす。胸から背中へ、腹へ、腋へと。

「うぅん。そう……きもちいい……もっと…………」

 野生の獣のようにしなやかに美しい肢体。強靱な筋肉を隠したなめらかな肌はどこに触れても柔らかい。

(皮膚の柔らかいところが……きもちいいんだったよな)

 僕はアインの言葉を思い出しながら彼女の喉元に唇を這わせる。

「……くぅん……」

 アインが子犬のような喘ぎをあげる。可愛らしいその声をもう一度聞こうと、僕は右手を乳房の先端にのばした。

「ふぅっ……ああ…………」

 ぴん、と上を向いた淡い色の乳首を優しく摘み上げる。同時にひくん、とアインの身体が跳ねる。

「くうっ」

「い、痛かった?」

「……少し驚いただけ。……でも、もっと優しく」

「うん……ごめん」

 もう一度、慣らすように先端近くを揉みしだき、それから触れる場所を先端に近づけてゆく。

「はん……ぅぅん……そう。上手……」

 そして再び彼女の先端に指を寄せる。今度は、驚かせないように、優しく。

「ああ……そう……ぅうん」

 こりこりとした乳首を擦るように弄ぶと、そのたびにアインの腰がびくびくと痙攣する。まるで、誘っているかのように。

 右手で乳首を慰めながら、腹を愛撫していた左手を撫で付けながら降ろしてゆく。張りのある太股と小振りな尻と、そして彼女のあそこに触れるために。

「ツヴァ……あう、んむ…………」

 何か言いたげなアインの口を濃厚なキスで塞いで、鍛え上げられた太股を撫でる。うっすらと汗ばんだ肌が、吸い付くように心地よく、柔らかい。

 やわやわと掌を往復するたびに、鍛え上げた細い太股は快感に震える。

「んああ……むんん……んん…………」

 咎めるようなアインの視線が、少しずつ快感に溺れてゆく。上げる吐息も、甘い色が混じる。

 見慣れた彼女の顔が桃色に染まる様子は、酷く扇情的だった。

「……アイン……かわいい」

「ふぁっ! ツ、ツヴァ……イ。ふぅっ! ああっ!!」

 無茶苦茶にしたいと想った。快楽に無茶苦茶にされる彼女を見たいと、そんな快感を彼女に与えたいと、そう思った。

「ほら、アインの乳首……こんなに欲しがっている。こうやって……きゅっ、ってして欲しいの?」

「ぁうっ! はぁん!!」

 乳首を掘り出すみたいに優しく爪を立てる。アインの腰が驚くみたいに跳ね上がる。誘うように突き上げた彼女のあそこから……とろり、と濃い粘液が垂れ落ちた。

「アイン。もっと、気持ちよくなってほしい。僕が、きみを気持ちよくしたい。こうやって、どこまでも、ずっと……」

「はぅぅっ! ああん!!」

 うわごとのように呟いて、僕は乳房の先端を甘噛みする。まるで、乳を啜る赤子のように、彼女の内側にまで触れようとするように。僕は彼女の乳首に吸いつき、弄ぶ。

「ふぁ……くああああああああっ!!」

 快感の声を上げてアインが僕の頭を抱きしめる。柔らかい胸に顔が埋る感触が心地いい。甘い彼女の匂いが、僕の欲望を煽り立てる。

「……アイン……。今度は……ここだよ…………」

 僕は、そう小さく囁いて。

―――つぷぷぷぷ…………

 熱く濡れたアインのあそこに指を差し込んだ。

「はぁ、あああああああああああああああああああっ!!」

「……あたたかい……」

 熱くぬめった感触。ひくひくと断続的に震える内側。そして、鍛え上げた彼女の肢体が、指一本でもきつく締めつけてくる。

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 侵入される異物感のためか、それとも快感のためか、アインの声はもはや、途切れそうなほど甲高いものになっていた。

 僕がほんの少し指を押し入れる。

「ふぅあっ、ああ……」

 そのたびに、甘い甲高い嬌声を彼女は絞り出す。細身の裸体をくねらせ、軋ませて喘ぐその様子は、苦痛に耐えているようにすら見える。

 僕は押し込む指を留めると、ゆっくり引き抜き、そして同じはやさで再び指し入れた。

「ふぅ……はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ぎしぎしと締めつける内壁の感触。いくつもの柔らかな凹凸が僕の指を震えながらまさぐる。溢れる愛液は、前よりも濃く、泡だったものへと変わっていった。

「はぅ……あむ、むんん……」

 投げ出された子供みたいに震えるアイン。彼女をきつく抱きしめ、身体をするよせる。触れる身体の隅々で、彼女を愛撫するかのように。

「アイン。愛してるよ」

 何度目の言葉だったろうか? 濃厚なキスの後に言った言葉は、ひどく自然な響きだった。

「……嬉しい……愛してる。私もあなたを」

 快感に沈んだ瞳でうっすら笑い、アインは応える。僕は、もう一度彼女の唇を奪う。

「……いくよ」

 そう言って、正面からしっかりと彼女を抱きしめ、挿入を開始した。

「……ふぅ……ああっ!」

 じゅぷぷぷぷ

 水音を立てて僕のものがアインの中に呑み込まれてゆく。押し入れる分には抵抗やひっかかりのようなものはあまりない……いや、それどころか彼女自身がまるで貪欲に吸いこんできているかのような気すらする。

「……熱い……」

 挿入の楽さとはうらはらに、彼女のなかは心地いいものだった。挿入しているだけでえらく柔らかい表面が僕の固くなったものに強く絡み付く。そのくせ膣自体は狭く、全体で絞るように僕を締めつける。

「ふぅぅぅ……あああっ……」

 彼女が濡れやすいのか、それとも女性はこんなにも濡れるものなのか僕にはわからないが、愛液は抽送のたびに二人の間から零れ落ちるほど溢れ、狭いほどの胎内を思うように嬲れるようにしてくれている。

「あん……ああ、ああん……」

 そして、彼女の囁くような喘ぎ。

「……ああ……くぅんっ」

「アイン、かわいい、だいすき……愛してるよ」

 クールな……殺伐としたと言ってもいい彼女の声がそのまま、子供のような優しい喘ぎに変わっている。それが、僕をひどく興奮させた。

「はぅぅ、ぁ……ふむむ、うううんっ!」

 じゅぶじゅぶと音を立てて彼女を何度も突き刺す。柔らかい内壁が、まるでいつくもの触椀をもった生き物のように僕を包み、絡めとる。

「あ……ツヴァイ。ツヴァイのいい……きもちいいわ」

 包み込まれるたび、僕は彼女の襞全てを味わおうと、こね回すように肉棒を動かし、そして彼女を味わい尽くす。

「はぁっ! んん!! それ、は……ああっ、はぅぅぅっ」

 ひくん、ひくん、と何度かアインの全身が痙攣する。僕が入れてから何度か、軽くいったということらしい。

 深い色の瞳が一瞬焦点を失い。それから、すこし照れたみたいに僕を見上げる。

「いっちゃったの?」

「……そうよ。あなたが上手だから」

 僕達は僅かに微笑みあい、それから僕は腰の動きを再開した。

「くぅぅんっ! ああ……こ、こんどは……あなたが……ああん」

 余韻ごと一気に火をつけられたアインが、息も絶え絶えに言う。きゅうっ、とたまらない締め付けが僕を包み込む。

「はうう……くぅ、ああっ!」

―――ぐちゅ、ずぷぷ、ごぷ……

 粘液の混ざり合う音が淫猥に響く。たまらない衝動が、熱くうねる肉と肉をぶつけ合わせる。

―――混ざり合う

 そのために僕は、より深く彼女を犯す、柔らかい膣の奥へまで。

 熱く火照った白い肌をどこと言わず歯を立てる。まるで、彼女を食らいつくすかのように。

「ふぅぁっ! くうううううううううっ!! ああ、あう!!」

 アインが苦悶に近い表情で背を反らす。小振りな乳房が張り付くように前につきだされ、ふるふると震える。その先にあるぴん、と張った先端は、弄んでくれと、主張しているみたいだった。

「かわいい……もっと。きもちよく。ここ、こうやって……」

「ひゃぁうううううううううっ!!」

 こりこり、と音を立てて彼女の乳首を甘噛みし、乳腺を舌先で侵す。もう一度、隠そうともしなかった瑞々しい肢体が躍動して、悲鳴のような声を上げた。それは、彼女が大きすぎる快感をどこかに逃がしているようにも見えた。

「あぁぅ……きて……出して、あなたの、なか……あああああああっ!!」

 耐えるように、アインは僕にしがみつく。僕は、一気に彼女を突き刺し、乱暴に動かし始めた。

「きゃぅ、あぅ、ううあ、あああああっ!!」

 僕に纏わりつく手が、肢体が、そして膣壁が、突き上げるたびにびくびくと痙攣する。もう、彼女が何回達したかもわからない。お互い全身を汗と恥液にまみれされ、狂ったように交じり合う。

 快楽を貪る二頭の獣が、そこにはいた。

「ひぅ、あああああっ! そん、あう、ふぅ、っ〜〜〜〜〜〜!!」

「アイン、僕、も、もう……出す……なかに、アインの……」

「きゅぅ、あぁっ、出して、わたし……ほしい、きて、きて! きて!!」

 瞬間、猛烈な爆発感が僕を襲った。

――――どく、どく、どく

「きゃううううううううううううううううううううううっ!!」

 意識もなにも一気に噴き出してしまったような快感。

 僕は、つつみこまれるみたいに、ゆっくりとアインの胸元に崩れ落ちる。意識を繋いでおくのも億劫だった。

「……優秀よ。ツヴァイ」

 眠りの淵に落ちようとしていた僕の視界に映ったもの。それは、いつもと同じ瞳のアイン。猟犬の瞳を持つ、完璧な殺人機械

「あなたは、きっとわたしを超える」

 そう言って、ゆっくりと彼女は僕に口付ける。

 猟犬の瞳のままで。


 それがなぜか、僕には一番嬉しかった。




「ツヴァイはどうだったかね?」

「優秀です」

 マスター・サイスの質問に、私は簡潔な返答を返す。

「……ほう?」

 一瞬、マスター・サイスは探るように私を見つめる。久しぶりに見る私という作品を観察する目。

 訓練といえど、アインとなって初めて愛情と呼ばれる感情を受けた機械が精度を狂わせていないか、彼なりに心配をしていたのかもしれない。

「ならばいい。下がれ」

 しばらく、マスター・サイスは観察を続け、そしておもむろに興味を無くしたように私を追い払う。

 いや、事実興味を失ったのだろう。

「はい」

 そして私は、急ぐように常用のカトラスに乗り込み、ツヴァイの元へと帰る。

 全速でハイウェイを駆け抜け、それでも彼の元についたのは、夜半を過ぎていた。

「……起きていたの?」

「うん、ちょっと……」

 意外なことに……もしくは、当然のように……彼は闇の中、ベッドに腰掛けて一人、待っていた……多分、私の帰りを。

「えっと。その……昨日の件なんだけど」

 彼の顔は暗闇でもわかるくらい、赤くなっている。

「昨晩の訓練?」

 私の心拍数も上昇している。多分、彼は気付かないだろうけれど。

「そう、それなんだけど。……その、えっと……また、やるの?」

「訓練が一回で終わったことがあったかしら?」

「……じゃあ今日も?」

「そうね」

 何気なく言った声が震えていることに、彼は気づいただろうか? 期待に私の中の”女”が胸のなかでうねる。

「やはり、あなたはまだ性欲に対する抑制がきかないわ。それを含めて技術面もレクチャーしておいた方がいいわね」

 いいながら、彼のベッドに腰掛け、股を開く……服は、つけたまま。

「……技術?」

 ごくっ、ツヴァイが呑みこんだ生唾の音がここまで聞こえた。

「そう、技術。……まずは、指で触れてみて」

 ぴったりとしたスパッツに、淫唇を写し出すほど腰を突き出して、私をツヴァイを誘う。

「…………」

 憑かれたようにツヴァイの手が伸びる。が、その途中で私はそれを手に取り、自分の頬へとなすりつけた。

「その前に、言う言葉があるでしょう?」

 ごわごわした感触の掌が心地いい。彼は一瞬、驚いたような顔をして、それからゆっくりと口に出す。

「……ああ。愛してる。愛してるよ、アイン」

 優しく、心地よく。

「…………ぁぁ…………」

 じゅん

 音を立てて、私の”女”が溢れて、スパッツを汚した



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